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複雑化する世界で生き残るため、企業がタコ型組織へと変革する実践法2025年12月5日

タコ型の会社とブリキ型の会社

会社のあり方を「ブリキ型(Tin Man Org)」と「タコ型(Octopus Org)」の二つに分けて説明しています。ブリキ型の会社は、かたくて融通がきかず、上からの命令で動くイメージです。それに対してタコ型の会社は、周りの変化をよく観察しながら、触手のようにあちこちの現場が自律して動いていく、しなやかな組織として描かれています。

ブリキ型の会社はイノベーション、つまり新しい取り組みや工夫を「特別な部署」の仕事にしてしまいがちです。イノベーションラボのような場所を作り、そこを本体組織とは物理的にも文化的にも切り離して、「新しいアイデアはここで生まれる」と考えます。ラボのチームは確かにいろいろなアイデアを出しますが、現場のリアルな課題や、実際に導入するときの大変さを十分分かっているとは限りません。最終的には「このアイデアでいきましょう」とだけ告げて、本番の運用や調整は現場に丸投げになってしまうことも多いのです。

それに対してタコ型の会社は、イノベーションを特定の部署の仕事とは考えません。イノベーションとは、毎日お客さんのために少しでも良い方法を探し続けることそのものだ、と捉えています。そのために、会社のあちこちに工夫が生まれる仕組みをつくり、小さな分散したチームに「お客さんの問題を最初から最後まで見て解決する」責任を任せます。お客さんに一番近い人が、自分で試し、学び、次のやり方を作っていく形です。タコの触手がそれぞれの場所で環境を感じ取り、動いていくイメージに近いと思ってもらうと分かりやすいかもしれません。

タコ型の会社が大事にしているたった一つの質問

タコ型の会社の行動には、中心にある「絶対に外さない質問」があります。それは「これは本当にお客さんの価値を増やしているか?」という問いです。会議のやり方、コールセンターの対応、社内のルールづくりなど、一見お客さんから離れていそうなことも含めて、この質問でチェックします。

この質問をしつこいくらい繰り返すことで、社員一人ひとりが「自分の仕事とお客さんへのインパクト」のつながりを強く意識するようになります。自分がやっていることが誰かの役に立っていると実感できると、仕事へのやる気は自然と大きくなります。そのエネルギーが、さらに新しい工夫を生み、環境の変化にも負けない強さにつながっていきます。研究では、お客さんへのこだわりが強い会社は、そうでない会社に比べて、業界トップクラスの成長を達成する確率が三倍以上あり、利益率も二割以上高いという結果も出ているそうです。

フレームワーク探しより「物の見方」を変える

タコ型の考え方を経営者に説明すると、多くの人は「具体的なフレームワークは?」「手順書やロードマップは?」と聞いてきます。しかし著者たちは、それこそがブリキ型の発想だと言います。タコ型の会社への変化は、きれいなステップやマニュアルどおりには進まないからです。むしろ、結婚や家族関係を育てるように、少しぐちゃぐちゃしながら時間をかけて形ができていきます。

大事なのは、新しいチェックリストを手に入れることではなく、人々の「世界の見方」と「ふるまい方」が変わることです。そのための考え方として、三つの原則が挙げられています。ひとつ目は、人に対して変化を押し付けるのではなく、人と一緒に変化を起こすことです。現場で働く人たちの知恵や経験、モチベーションを活かし、自分たちで「何が成長を邪魔しているのか」「どう変えられそうか」を見つけて、試していく状態になっていることが重要だとされています。

二つ目は、変化を「学び」とセットにすることです。実験的な取り組みは、特別なプロジェクトとして切り離すのではなく、日々の仕事の中に埋め込みます。目的は単に「変えること」ではなく、「本当に良くなるやり方を見つけること」です。期待した効果が出なかった実験でも、「なぜそうなったのか」「何を勘違いしていたのか」という学びが残っていなければ意味がありません。たとえば会議時間を短くしても、決定の質が下がっているなら、単に楽になっただけで本当の改善とは言えない、という話です。

三つ目は、「足す」よりも「引く」ことを優先する姿勢です。問題が出るたびに新しい制度や会議、ツールを足していくと、どんどん複雑で動きにくい組織になっていきます。そうではなく、不要な承認ステップや意味の薄い会議、慣習として残っているだけのルールなどを減らせないかをまず考えることが大切だと語られています。文章の中では、ある会社が半年間だけ戦略会議でパワーポイントの使用を禁止した例が紹介されていました。スライドに頼れなくなったことで、リーダーたちは自分の言葉で考えを説明しないといけなくなり、かえって話の中身がクリアになったそうです。こうした小さくても意味のある変更を短いサイクルで回し、何度も「良くなった」という実感を持ってもらうことが、長期的な勢いにつながります。

会社を弱くする「アンチパターン」とは何か

タコ型の会社になるための第一歩は、「自分たちを弱くしているクセ」を見つけることだと文章は言います。そのクセのことを著者たちはアンチパターンと呼んでいます。アンチパターンとは、一見正しそうに見えて、長期的には状況を悪化させてしまうお決まりの反応です。多くの会社は、実は特別な問題を抱えているわけではなく、このような似たようなアンチパターンを繰り返しているに過ぎない、という指摘です。

ここでは特に大きなアンチパターンとして、三つのグループが紹介されています。ひとつ目は「明確さを失わせる行動」です。会社のミッションがきれいな言葉だけで具体性に欠けていたり、「20XX年までに利益を○%増やす」など、数字だけが目標として提示されたりすると、現場の人は「結局何を基準に判断すればいいのか」がよく分からなくなります。情報が部署ごとに閉じていて、上から下に伝わる間に薄まり、歪んでしまうことも、状況をさらに分かりにくくします。

ふたつ目は「オーナーシップを奪う行動」です。口では「人が最大の資産だ」と言いながらも、実際には人を「リソース」や「コスト」としてしか見ていないケースです。何をするにも許可が必要で、リスクはルールとチェックで潰すことばかりが優先されます。上司は細かいところまで指示し、失敗には厳しく対応するため、人は「自分で考えて動かないほうが安全だ」と感じてしまいます。しかし本来、人間は幼いころから、自分で触って確かめたり、できることを増やしたり、「これは自分のものだ」と感じたい生き物です。その自然な欲求を押さえ込むことは、世界全体で年間何兆ドルもの生産性の損失につながっている、という研究も紹介されています。

三つ目は「好奇心をつぶす行動」です。好奇心を尊重しない会社は、今あるやり方の小さな改善にばかり集中し、新しいチャンスや迫ってくる危険に気づきにくくなります。経営者は「創造的な人材がほしい」と言うものの、現場の人たちは「本当に好奇心や挑戦が歓迎されている」とは感じていません。口では「挑戦しよう」と言いながら、実際に評価されるのは「予定どおり、予測どおり」に動いた人ばかり、という矛盾もよくあります。AIが進んで単純なルーティン作業が機械に置き換わっていくほど、人間の好奇心と創造的な問題解決力は重要になるのに、その力を育てる環境が整っていない、というギャップが広がっていると文章は指摘しています。

こうしたアンチパターンを見つけるには、会議中のため息や目線、苦笑いのような「言葉にならない反応」に耳を澄ますことが大切だと書かれていました。また、新入社員が感じる違和感や、退職者が本当の退職理由として口にすること、社内アンケートやヘルプデスクに何度も出てくる不満なども、ヒントになります。

仮説、実験、振り返りという小さなループ

アンチパターンがいくつか見えてきたら、次はそれに対して仮説を立てて、小さな実験をしていきます。ここでも大切なのは、失敗を恐れない姿勢です。「こう変えたらこういう効果が出るはずだ」と考え、その仮説が外れたとしても、「なぜそう思っていたのか」「現実はどう違っていたのか」を学べれば、それは価値のある結果だと捉えます。

介入のレベルを三段階に分けていました。ひとつは、既存の仕組みの中で設定だけを少し変えるような小さな調整です。たとえば経費の承認者を十一人から二人に減らすなど、すぐできて、効果もすぐ見えるけれど、影響範囲は限定的なものです。二つ目は、フィードバックの仕組みそのものをチューニングするレベルです。クレームが来たら必ず原因分析を行うようにしたり、顧客の不満がリアルタイムでエンジニアにも見えるようにしたりして、システムの動き方そのものを変えていきます。三つ目は、組織のDNAを書き換えるような介入です。ルールを細かい承認から「原則ベースの判断」に切り替えたり、四半期利益ではなく顧客の生涯価値を主要な指標にしたり、「命令と管理」を前提とした考え方から、「信頼と自律」を前提とした考え方に移っていくような変化です。こうした変化は、導入コスト自体は低いものの、人々が本当に考え方を変えるまでには時間と繰り返しのコミュニケーションが必要だと説明されています。

仮説を決めたら、次は実験です。実験には三つのパターンがあると紹介されていました。ひとつは、何かを「やめてみる」ことです。Netflixが有給休暇に関する細かい規定や管理システムをやめて、「会社の利益になるように行動しよう」というシンプルな原則に置き換えた例が挙げられています。二つ目は、今あるプロセスから少し外れてみることです。たとえばGoogleは、面接の回数が増えすぎていたことに対し、四回を超える面接を行うには役員の承認が必要というルールを作ることで、無駄な面接を減らしました。スターバックスでは、細かいマニュアルをやめて、「何を、なぜやるのか」を伝え、あとは現場に任せるスタイルに変えた話も出てきます。三つ目は、新しいやり方やルールを小さく試すことです。コカ・コーラの例では、承認者を「門番」ではなく「ガードレールを示す協力者」と位置づけ直し、「承認してもらえますか?」ではなく「どうすれば一緒に実現できますか?」という会話が生まれるような仕組みに変えたと書かれていました。

実験の期間は内容によってさまざまですが、共通しているのは、最初の実験はできるだけ小さく始めるべきだという点です。影響が小さければ、周りもチャレンジを受け入れやすくなりますし、失敗したときのダメージも限定的です。著者たちは、良い実験には「万が一うまくいかなかったときに火消しできる手段を用意しておくこと」も大事だと書いていました。たとえば、余計なコストをカバーするための予算や、困ったときに手伝ってくれるバックアップチーム、問題が起きたときにすぐ状況説明できるメモなどがそれに当たります。

結果だけでなく「前提」まで振り返る

実験のあと、人はつい「うまくいったから全社でやろう」「失敗したからもう二度とやらない」と単純な結論を出したくなります。しかしタコ型の会社はそこで止まりません。大切なのは、結果だけではなく、「そもそもなぜそれでうまくいくと思ったのか」「どんな考え方や前提があったのか」を振り返ることだと説明されています。このように、行動だけでなく、その根っこにある考え方まで見直す学び方を、ダブルループ学習と呼びます。

アメリカ軍のアフターアクションレビュー(AAR)という仕組みが例として紹介されていました。訓練のミッションに失敗したとき、単に「誰の判断が悪かったか」を決めて終わらせるのではなく、「なぜその判断がベストだと思われたのか」「前提としてどんな情報を信じていたのか」を皆で振り返ります。そうすることで、単なる個人のミスの修正にとどまらず、情報の集め方や作戦全体の考え方そのものを改善していきます。

「スケールさせる」より「自然に広げる」という発想

いくつか実験がうまくいくと、リーダーはよく「これを全社にスケールさせよう」と言いたくなります。しかし著者たちは、この発想もまたブリキ型だと指摘します。トップダウンで一気に全社展開しようとすると、現場の人たちは「自分たちで作ったもの」ではなく「また新しく押し付けられたルール」と感じてしまいがちだからです。最初に実験して学んだ人たちと、新しくやらされる人たちのあいだに、気持ちのギャップも生まれます。

タコ型の会社は、「スケールする」というより「自然に広がる」ことを大事にします。うまくいった取り組みを見た他のチームが、「自分たちの状況にも役立ちそうだ」と感じて自ら引き寄せ、自分たちの文脈に合わせて少し変えながら取り入れていく、というイメージです。昔のアマゾンで、開発者が自分の作業の面倒を減らすために、画像を視覚的に検索できるツールを自作した話が紹介されていました。そのツールは便利だったので、他の開発者やデザイナーにも自然と広まり、やがて国際版まで作られたそうです。誰かが「全社で必ず使え」と命令したわけではなく、ただ「役に立ったから勝手に広まった」という流れが、タコ型の拡がり方の典型例として挙げられています。

タコ型のリーダーとはどんな人か

最後に、このようなタコ型の組織を支えるリーダーの像について、文章は詳しく説明しています。タコ型のリーダーは、自分が現場のすべてを指示する「司令官」ではありません。むしろ、人々が自律的に動けるような「環境」や「仕組み」を設計し、整えていく人だと描かれています。

そのため、タコ型のリーダーは、自分で細かい仕事をこなすことよりも、仕組みやルール、情報の流れ、心理的安全性などを整えることに多くの時間を使います。現場を信頼し、細部を指示するのではなく、「何のためにそれをやるのか」という目的や背景を何度も伝えます。そして、人が安心して意見を言えたり、失敗から学べたりする空気をつくることを重視します。

コミュニケーションのスタイルも変わっていきます。命令文が多いリーダーではなく、質問が多いリーダーになります。相手の話を聞きながら「どう返すか」を考えるのではなく、まず「相手が何を考えているのか」を理解しようとします。「なぜそれをやるのか」という文脈をしつこいくらいに伝え続けることが、現場の判断力を育てる一番の支援だと捉えているからです。自分がヒーローになるのではなく、人がヒーローになれる場を整える役目を、自分の仕事だと理解しているのがタコ型のリーダーです。

タコみたいな会社になるということ

自然のタコは、遠くを見渡す大きな目を持ちながら、触手で周囲を細かく探り、状況に応じて色や形を柔軟に変えます。文章は、会社もタコのように、外の世界と未来を見渡す力と、現場が環境に合わせて素早く動き方を変えられる柔らかさを両立させるべきだと語っています。

そのために必要なのは、難しい専門用語や複雑なフレームワークではなく、三つのシンプルな土台です。何を目指しているのかをはっきりさせること、一人ひとりが「これは自分ごとだ」と思って動けるようにすること、そして「もっと良いやり方はないか」「なぜそうなっているのか」と問い続ける好奇心を大事にすること。この三つを育てる仕組みを少しずつ作っていけば、会社はブリキのようにかたくなるのではなく、タコのように賢く、しなやかで、変化に強い存在に近づいていけるのです。

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